令和元年11月2日(土)、「令和元年度 学校の森・子どもサミット」が長野県伊那市立伊那西小学校にて開催されました。
「学校の森 子どもサミット」とは
「学校の森・子どもサミット」は、全国にある国有林の各管理署で開催されてきた「学校林・遊々の森 全国子どもサミット」の後を継いで、2014年から開催されてきた活動です。森林を活用した学校での授業や体験活動が子どもたちの生きる力を育み、学びや育ちに多くの恩恵があることを全国で発表し続けてきました。2019 年、その「学校の森・子どもサミット」開催のバトンが長野県伊那市に巡ってきました。そのバトンを託されたのが、わたしたちミドリナです。
今年度は、これまでの「学校活動」の枠を飛び出し、“子ども” の意味を広げたサミットへと移行させる重要な役割を担う年でした。 「誰もが森とつながる伊那市の未来」を目指すミドリナにとっても、子どもと森の接点を増やすことは欠かすことのできないテーマです。森から学び、森を慈しみ、森とともに歩む未来を描く。今回のサミット開催は、「ソーシャルフォレストリー都市」伊那市の実現に向かうためのミドリナにとって大きな学びとなりました。開催の機会をいただいたこと、国や県をはじめ、多くの関係機関の皆様にご協力いただいたことに深く感謝いたします。
伊那西小学校の森散策
「森はぼくらの教室だ」をテーマに、校舎に隣接した学校林で年間を通して授業や様々な活動を行う伊那西小学校。子どもサミットの開演に先駆け、林内活動が各学年ごとに行われました。
林内活動・実施内容
- 1年生「しゃぼんだま遊び」
- 2年生「落ち葉のドレスづくり」
- 3年生「チョウの学習」
- 4年生「あく抜き用灰作り」
- 5年生「リタートラップの観察」
- 6年生「森の観察・樹高調べ」
第1部 「子どもサミットのこれまで」
これまでの学校の森・子どもサミットの成果を各学校の事例などから紹介しました。
学校と森が離れていたり、森との関わり方に迷いながらも、様々な状況で森とつながる取り組みをしてきた先生たちの声を聞きました。
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井戸 しのぶ先生
東京都八王子市立山田小学校
東京都では最大の約0.7ヘクタールの学校林を持つ「多摩市立豊ヶ丘小学校」。井戸先生は森の活動を通じて「自分たちで気づき、活動する」子どもたちの姿を目の当たりにしました。「整備グループ」「調査グループ」「制作グループ」などさまざまなグループが発足しましたが、そのひとつ「看板グループ」は学校林の入口の看板が外れていることに”気づいた”子どもたちが発足したグループ。看板を作ろう!と、デザイン、見積もり、校長先生への交渉を行いましたがお金がありません。しかしそこで諦めることなく、森で見つけた丸太を薄切りにして自分たちで看板作りに励みました。つるや枝で文字を書き、どちらがいいか学年に問いかけるなど検討を重ね、自分たちらしい看板を“無料”で作ることに成功したのです。
活動に際し、学校が行ったのは子どもたちがやりたい活動を保証するための準備。人を繋ぐなど地域の財をあらかじめコーディネートしておくことが土台になりました。また、さまざまなグループが同時に活動を進める中で先生が大切にしたのは立ち止まって考える時間。他のグループの活動を共有し、視野を広げさせることで次へのヒントに繋げました。先生はこう話します。
「森の活動によって森の環境問題が解決できたのかどうか。それは簡単には答えの出ないものであり、ジャッジすることはできません。しかし、子どもたちは間違いなく自分に自信を持ち力をつけたと言えます。また、そういう子どもたちから教員は力を得て、学校も変わっていったと実感しています」
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大澤 昇治先生
長野県大町市立大町南小学校
長野県北西部に位置する「大町北小学校」「大町南小学校」。この2校で大澤先生はそれぞれ特色を持った森の活動に携わりました。
大町北小学校には学校林がありません。しかし自然体験をしたいと希望した子どもたちが見つけたのが「山の子村」です。大町温泉郷を興した故・内山慎三さんが「子どもたちに自然体験の場を」と私有林20ヘクタールを整備し開村した場所ですが近年は利用者の減少から閉村していました。囲炉裏のある山小屋や図書館、池などが点在するこの村を気に入った子どもたちは「山の子村を復活させよう」をテーマに活動をスタート。体験を通して感じた山の子村の良さを多くの人々に伝えたいと「山の子村祭り」を企画し、5年生の時に実現しました。
「山の子村復活は里山再生の第一歩。真剣に楽しく続けることが内山さんの願いにつなげることだと子どもたちは実感し、4年生に受け継ぎながら自分たちも続けていこうと宣言してくれました」
一方、南小学校では、校舎をぐるりと囲む松林の再生プロジェクトに取り組みました。伐採した木を椅子にしたり、木で作られたステージでコンサートも開催。また、皆で苗木を育ててバザーに出店し被災地への募金活動も行いました。敷地内の池も地域の方の助けで復活し、松林は子どもたちのお気に入りの基地へと変わりました。「スマイルランド」と名付けられたその環境を気に入った彫刻家・国松希根太さんが自らの作品を設置したことから、同小は大町市が開催する芸術祭の会場にもなり、現在も国松氏によるワークショップが校内で開かれるなど幸せな繋がりが生まれています。
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小川 恭平先生
静岡県牧之原市立細江小学校
初任から4年間、子どもサミットに参加し、森での活動を通じて「教師として成長できた」と実感している小川先生。今回は初任者がどのように森と関わるかという独自の目線からの発表でした。ポイントは3つのキーワード。⑴とにかく頼る ⑵ られつを繋げる ⑶ いいことたくさん です。
愛知県岡崎市立生平小学校は長年「愛鳥活動」に取り組み、生物の保護や自然の保全を目指す学校です。小川先生が赴任した頃には新東名高速道路の建設や里山整備が行われ、総合的学習のチャンスにあふれていました。
「しかし初心者にとってはピンチ。何をしていいかわかりませんでした」と小川先生。そんな先生が最初に行ったのが市役所に電話すること。整備団体、地元の方々にも協力を仰ぐなど周囲に「頼る」ことから始めました。
授業で意識したのが「られつを繋げる」です。例えば「蛾は生活に必要?」という問いかけに「気持ち悪い」と答える子どもたち。しかし「鳥の餌になる」「受粉で森に役立つ」「森林は酸素を出して人の呼吸に役立つ」→「だから蛾も必要だよね」と示唆することで視点は大きく広がります。ほかにも活動が単発で終わらぬよう繋げたり、思考と活動を繋げるサポートを行いました。
3つめの「いいことたくさん」は森との関わりを通じて得られたこと。学び、充実感、達成感、全員活躍の場であること。学校や地域が好きという思いを持てること。
「森と関わらなければならないかと言われればそうではありません。ただ多くの事例がある森は初心者にも非常に扱いやすい教材のひとつです」と小川先生。「まだ森に関わったことがない方がいましたらぜひ『TRY』してください!」と明るい言葉で締めくくりました。
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鳥越 厳之先生
岡山県西粟倉村幼稚園
現在は幼稚園の園長をつとめている鳥越先生ですが、もとは小学校の教諭をつとめており、西粟倉小学校時代に5年間子どもサミットにも参加しました。人口1400人の西粟倉村では「村の子どもを育てるためのふるさと元気学習」として幼稚園、小学校、中学校と貫く特色ある教育づくりを行っています。
「大切なのはどのような子どもを育てたいか先生がイメージを作ること」だと鳥越先生。例えば低学年は「探検隊」。探検して見つけて感性を育てていきます。中学年は「記者」。様々なものを取材して記事に書き、それを伝えることで探求する力を育みます。そして高学年は「ふるさとプロデューサー」。自分たちにできるふるさとづくりを考え、実行していきます。
森で遊んで元気になった子どもたちは「自分たちが学校を元気にして周りの人にも元気を届けよう」と当たり前のように考え始めます。ここからは「森が広がる」学習。学校を元気にするキャラクターを考えたり、ふるさと元気グッズを製造して流通させたり、ふるさとで頑張っている人を表彰したりと活動は広がりました。
「子どもたちは地域の本物の教材を使い、体験を通して答えのない課題を本気で考え、本気で実行しています」と鳥越先生。かつての教え子で、現在は高校生になった少女に小学校時代の学びについてたずねたところ「いまでも西粟倉が大好きです。それは小学校のころから広く深く西粟倉のことを考えてきたから。私は将来、よそではなく地元で役に立ちたい」とはっきり答えてくれたそう。森での学びが子どもたちに「ふるさとについて本気で考える」大切な機会をもたらしています。
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二木 栄次先生
開催校:伊那西小学校校長
校舎に隣接した1.4ヘクタールの学校林を活用してさまざまな林間学習に取り組んでいる伊那西小学校。
「林間は最高の自然教室です。子どもたちは四季折々に変化する自然を体いっぱいに感じて生活しています」と二木先生。全校集会、校長講話、全校音楽、みどりの少年団、児童会、週2回800mの林間マラソン。秋には木の枝や実を使った造形活動が行われ、植物や水車小屋をスケッチしたり、国語の短歌づくり、算数ではかさや重さ、枝の角度や葉っぱをつかった線対称の図形など、自然を使った様々な学習が行われています。
一方で、70年近く経った森を守り続けていくのは大変なこと。台風の被害で木が倒れたり、枝が折れたり、病気が進んでいるところもあります。そこで、アドバイザーや地域の方に協力を得てはじめたのが森の整備。森半分を4つのブロックに分けて「新しい森」「学びの森」「つどいの森」「遊びの森」をテーマにした森づくりを進めています。アカマツ、カラマツを中心にひとつのブロックの木を切ることになった際には、児童全員で木に触れ、木の命を受け継ぐ会を開きました。大きな木の幹をぎゅっと抱きしめていた子もいたといいます。
新しくなった森は「きらめきの森」と名付けられ、整備された自然観察路を毎月歩いて観察したり、リタートラップの研究をしたり、各学年のテーマに沿った新たな学びがここから始まっています。
「木が切られてかわいそうだったけど光が差してきれいでした」「切り株からはいい匂いがしました」「木を切った切り株は面白いと思いました」と子どもたちの声。子どもたちは五感で森に親しみ、「豊かな心」を育んでいます。
第2部 トークセッション「森で起きたこと・森と触れる効能」
サミットの第2部ではトークセッションを行いました。第1部の発表者の皆さんに加え、コメンテーターに東京農業大学 地域環境科学部 森林総合科学科 教授の上原 巌先生、ファシリテーターにフリーパーソナリティの武田 徹さん、野外保育「山の遊び舎 はらぺこ」卒園生で高校3年生の林 慈雨(じう)さん、同園で保育士として働く母・美紀さんをお迎えし、森と触れて生活することによる効能をセッションしました。
登壇者の皆さん
ファシリテーター |
コメンテーター |
・武田 徹 さん |
・上原 巌 教授 |
・林 慈雨(じう )さん |
・林 美紀 さん |
・井戸 しのぶ 先生 |
・大澤 昇治 先生 |
・小川 恭平 先生 |
・鳥越 厳之 先生 |
・二木 栄次 先生 |
トークセッションの詳しい内容は
こちらをご覧ください
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第3部 「森がぼくらの教室だ」
ちょっと視点を変えると森への入り口がぐっと広がる・・・そんな体験を第3部では実施。映像と音楽を通して、どこにいても森が教室となるヒントが紹介されました。
伊那市では森林をより良い形で次の世代へつなぐために「伊那市50年の森林(もり)ビジョン」を掲げて様々な取り組みを行っています。「子どもと森」と題した映像では、幼少期の森との関わり方とその効果についてインタビュー形式で紹介。続いて、伊那市長の白鳥孝さん、映像をプロデュースした伊那市ミドリナ委員会委員長の柘植伊佐夫さん、武田徹さんが登壇し、伊那市の取り組みについて改めて解説しました。
そして最後には「学校の森ミニコンサート」を開催。世界を魅了するバリトン歌手・高橋正典さんと、伊那市出身の「魂を揺るがすピアニスト」平澤真希さんが登壇し、平澤さん作曲の「聖なる樹の声」、シュトラウス作曲「Morgen モルゲン」などを披露しました。
実施プログラム
- 映像による「伊那市50年の森林(もり)」ビジョンの紹介
- 伊那市長 白鳥 孝さん×ミドリナ実行委員長 柘植伊佐夫さんによる伊那市の取り組みの紹介
- 学校の森ミニコンサート(出演:バリトン歌手 高橋正典さん、ピアニスト 平澤真希さん、伊那中学校合唱部の皆さん)
おわりに
2019年、長野県伊那市での開催となった「学校の森・子どもサミット」。ラストイヤーとなる今年度は、これまでの「学校活動」からその枠を飛び出し、“子ども”の意味を広げたサミットへと転換させるべく、従来にはない新たなプログラムを設けて開催しました。参加者の皆様からは「森を体感するための新たな視点が開けた」「森を感じ、学ぶことの大切さを一層実感した」「近くに森がなくても、様々な方法で森を感じられることに気がついた」など反響の声をいただき、それぞれに新たな扉を開くきっかけとなったようです。
小さな身体に無限の可能性を秘めている子どもたち。幼少期での森との触れ合いは子どもたちと自然との距離をぐっと近づけ、これからの時代に必要不可欠な「自ら考え、行動できる力」を育みます。そしてその隣には子どもたちを信じ、過分な手助けはせずに見守りながら陰でサポートする熱意を持った先生たちの姿がありました。森であそび、森から学び、森を慈しむ。森林環境教育の大切さ、素晴らしさを改めて感じることのできた子どもサミットでした。
学校の森 子どもサミットの詳しい内容は
こちらをご覧ください
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