2020年より開催されている、市民による森にまつわる対話集会「ミドリナ白書シンポジウム」。2022年度はミドリナ委員会が製作した「森と暮らしの手引き」(ミドリナ白書要約版)を多くの市民に伝えていくため、毎年さまざまなかたちで開催してきました。
2023年は「森と暮らしの手引き」の完成を受け、「ここに書かれた内容をどう活かし、実践し、さらに提案を広げていけるか」について知恵を持ち寄ろうと、開催を計画。会場は会議室のなかではなく、もちろん「市民の森」です。
木々のざわめきや、心地よい風のそよぎを感じながら、皆で語り合い「森の『快』と暮らす」ためのアイデアを持ち寄る。この会そのものが市民の「森感度」を高めるひとつの体験になることを願ったこの日、地元信州大学の大学生や山のスペシャリストなど、市民約100人が集いました。
市民の森のステージの周囲をゆったりと取り囲むように参加者のみなさんが腰を下ろしたところで、まずはゲストトークから。日本の森林セラピストの草分け的存在として知られる鹿島岐子さんに、“森と暮らしの手引き”浸透と、ソーシャルフォレストリー都市実現のためのヒントについてお話しいただきました。
信濃町森林療法研究会(ひとときの会)会長であり、森林メディカルトレーナーの鹿島さん。
市民の森のステージに立ち、ぐるりと周囲を見回すと、「こうしているだけで気持ちがいいですね」とひとこと。会場のみなさんもしばし、周囲に耳を澄まし、森の気配をたっぷりと吸いこんで、話はスタートします。
鹿島さんが森林セラピーの道へ進むきっかけともいうべき、自身の子どもと過ごした森の時間についてや、日本でまだ知られていない森林セラピーを一つの事業として、また町の強みとして育てていくための道のりについて、包み隠さず語った鹿島さん。
ネイチャーガイドとは異なる森林セラピーの世界はまだまだ認知度が低いなか、町をあげてのブランディングを行うことで大手企業への研修等の実績を重ねてきたこと、一方で「信濃町に住んでいることの幸せ、良さを知ってもらうためにも、森の中で過ごす時間を地域の人にこそ味わっていただくことが大切」と、住民向け講座も手厚く継続していることなど、そのお話にはソーシャルフォレストリー都市実現のヒントとなる話題がたくさん詰まっていました。
都市部の大手企業の研究から、市民向けの小さな森林セラピーまで、数々の経験を重ねているにも関わらず、「20年も森を案内していたら、たくさん勉強したんじゃないかと思いそうなものですが、終わりがないんです」と、笑顔で語るその表情には、謙虚な心とともに、森への深い畏怖の想いも伝わってきます。
基調講演に続いて、ミドリナ委員と鹿島さんのトークセッションに。
メンバーの浜田久美子さん、千代登さん、福田渓樹さんが鹿島さんを囲み、ソーシャルフォレストリー都市実現のヒントを探っていきます。
浜田さんからの「とくに子どもたちに、森との関わりの魅力をどのように届けたら良いと思いますか?」との質問には、鹿島さんは「一回声をかけたとて、その後続くのはほとんどないのが実情です。空振り続きのなかで、ポッと当たることがある、そのときを逃さずに、徹底的に伝えていくことが大切だと思います」と回答。これを契機に、話題は「森との関わりがもたらしてくれるもの」「森という場の力」へと広がっていきます。
幼少期を妙高で過ごし、「じつは子どものころ鹿島さんにかわいがってもらったんです」という福田さんが、「森のなかでは、誰も知識をひけらかすような場にならないのが不思議で。森というコミュニティは大学の先生から子どもまで、どんな知識レベルの人同士でも同じ目線で話せるような魅力があると感じます」と話すと、千代さんも頷きながら深く同意。
「今、森の科学的効果について研究が進んでいて、森の癒し効果についてのエビデンスが明らかになりつつある。やっぱりここにいるだけでストレスが軽減する、リフレッシュされていく状態を共有しながら過ごしているから、『知識をひけらかす場』にならないのかもしれない。この地域では、地蜂を追って蜂の子を得る『蜂追い』の文化があり、おじさんたちが夢中になって山を駆け回っているけれど、それは蜂の子が食べたいということだけじゃなく、その行為そのものの心地よさを楽しんでいるという側面も強いんじゃないかな」と言葉をつなぎました。
「人の社会は、過去未来の前後を意識し、はからいながら社会が回っているのが日常ですが、流れるような毎日をすごすと、“今”が抜け落ちてしまいがちです。一方、森では、“今”をすごす時間を持つことができますね」と応える鹿島さん。
「とはいえ、通常の意識のなかで森に入っても、ほとんどの方が『緑、綺麗だね』と2秒で(笑)終了してしまうところ、私たち森林セラピストがこの場を丁寧に味わうためのご案内をし、森とのつなぎ役になるんです」と、森林セラピストの存在が深める森との関わり方について話します。
まず、子どもも大人も森に行くことができる環境をつくったら、森での体験に寄り添うナビゲーターの存在があれば、もっと多くの人が「森感度」の高まる体験ができるかもしれない──。世代を超えた体感と経験の共有により、後半のワークショップにもつながる多くのヒントが詰まった時間となりました。
白熱のトークセッションと、森のなかでのお昼休みを終えて、いよいよ「焚き火トーク」の時間に。参加者のみなさんが、ソーシャルフォレストリー都市実現のためのアイデアを話し合い、発表します。
会場には、「①市民の森の使い方(A・B)」「②DIY・エネルギー」「③食・癒し・祈り」「④スポーツ・遊び・学び・創造」の5グループがそれぞれに焚き火を囲み、語り合いました。
以下に、発表されたいくつかのアイデアをご紹介します。
一日を通じ、穏やかな気候に恵まれたミドリナ白書シンポジウム2。最後にミドリナ委員の須永理葉さんからの挨拶で締めくくられました。
「今日は一日、ありがとうございました。最初に考えていたとおり、一人ひとりが今よりも少しでも森と一緒に暮らすことを楽しめるように、アイデアをシェアし、刺激し合い、互いのまなざしのなかに変化が起きるような一日になったのではないでしょうか。すべて集まったみなさんと森のおかげだと思います。心から感謝申し上げます。
発見した動植物をシェアする地図づくりなど、具体的なアイデアも出ました。実現可能な大人たちが今日は立ち会って聞いていたかと思いますので、ぜひ持ち帰って実現する方法を探っていただけたらと思います。そして参加者の皆さんの多くは、森や自然は限りなく追求できると改めて感じたのではないかと思います。
森のことは、頭じゃなくて体が知っている。そんなことも考えました。
それを暮らしの方に寄せて発想すると、お金を介さない暮らしの楽しみとして自然との付き合い方を考えることにヒントがある気がしています。今日も、ほとんどお金を使っていないけれどすごく満足度のある時間がすごせている。そうしたことこそが、これからの暮らしに大切な価値観と感じています。
みなさんが心の中に残していただいたことをひとつでも、二つでもできれば三つでも森と共にある暮らしをつくっていけたら幸いです。ありがとうございました」
森と暮らしを近づけ、ソーシャルフォレストリー都市実現を市民自身で考えるシンポジウム。これからも森を会場に、定期的に続いていく予定です。ぜひご参加ください。
「森と暮らしの手引き」はこちらからご覧いただけます。
https://midorina.jp/news/1271/